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AI Advance
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「あれやっといて」で済ませてきた社長が、AIに通用しなくなる日

執筆: 池田 哲郎(代表取締役・中小企業診断士)

最近、AIをどう使えばいいか分からないという相談が、本当に増えました。

先日、ある製造業の社長さんと話したときのことです。

「ChatGPT、便利らしいから試してみたんですけど、欲しい答えが返ってこなかったんですよね」

そう言って、ちょっと不満そうな顔をされていました。気になって聞いてみたんですね。

「ちなみに、どんな指示を出されたんですか?」

「いや、『うちの会社の見積もりの書き方を教えて』って」

なるほど、と思いました。それじゃ確かに、いい答えは返ってこない。AIが悪いんじゃなくて、指示が曖昧なんです。

で、これと同じことが、社員への指示でも、外注業者への依頼でも、毎日のように起きているんじゃないか。AIを使ってみて初めて、自分の「指示」がどれほど曖昧だったかが見えてくる。

これは、AI時代の経営者にとって、けっこう重要な発見だと思っています。

「あれやっといて」で社員が動いていた時代

少し前まで、中小企業の現場では「あれやっといて」「いつもの感じで頼む」「適当にお願い」みたいな指示が、ふつうに通っていました。長く一緒にやってきた社員なら、それで動ける。社長が言いかけた瞬間に「あ、あれですね」と察してくれる。

でも、今は違います。

人手不足で新しい人を採る。世代も価値観も違う若手が入ってくる。中途採用の人もいれば、外国人スタッフもいる。さらに外注先や、AIまで「使う側のスタッフ」になってきた。

「あれやっといて」が通用する相手は、もう、社内のごく一部だけになってしまったんですね。

ところが、社長の指示の出し方は、20年前と変わっていない。

で、ここで歪みが出ています。

「最近の若い子は察しが悪い」「AIなんて使えない」と感じる社長が増えているんですけど、その9割は、実は指示の出し方の問題なんじゃないかと思っています。

ドラッカーが70年前に言っていた話

経営学の世界には「目標による管理(MBO:Management By Objectives)」という考え方があります。ピーター・ドラッカーが1954年の著書『現代の経営』で提唱した、もうほとんど古典です。

要するに、「目的」と「達成すべき条件」と「成果物の形」を、上司が部下と共有しておく。あとはやり方を任せる、というシンプルな話なんですけど。

70年前にドラッカーが言っていたことが、なぜ今、急に重要になってきたのか。

答えは、AIが「指示書通りに動く存在」として、あらゆる中小企業の現場に入り込んできたからだと思います。

AIは、空気を読みません。「いつもの感じ」が分かりません。長年の付き合いで察してくれることもありません。書かれた言葉だけで動く。

つまり、AIを目の前にすると、社長の指示力がそのまま試される構造になっているんですね。

これって、社員に対する指示力をテストされているのと、ほぼ同じことです。

世界最先端のAI企業の現場では、エンジニアがもうコードを1行1行書かなくなったという話が出ています。設計だけして、書くのはAI。仕事は、AIが出してきたものから「使えるもの」を選ぶこと。

規模は違いますけど、中小企業の社長が向き合っている構造と、本質的には同じです。「自分は何を設計するのか」「実装は誰に任せるのか」「成果物の良し悪しを誰が判断するのか」。この3つを、自分の言葉にできるかどうかが分かれ目になります。

「目的・条件・成果物」の3点セット

ここしばらく、クライアントの社長にお勧めしているのは、指示を出すときに3つに分けて考えるという方法です。

ひとつ目、「目的」。何のためにやるのか。

ふたつ目、「条件」。守るべきこと、避けるべきこと。

みっつ目、「成果物」。最終的に何の形になっていればOKか。

さっきの製造業の社長さんの例で言うと、「うちの会社の見積もりの書き方を教えて」ではなく、

  • 目的:新人が見積書を一人で書けるようになるためのマニュアルを作りたい
  • 条件:A4で1枚、写真や図は入れず文字だけ、専門用語は使わない
  • 成果物:項目ごとに「書く内容」「書かない内容」「失敗例」が並んだ表

これだけ揃えてから「上の条件で、見積書作成マニュアルを書いて」とAIに頼むと、本当にびっくりするくらい使えるドラフトが返ってきます。

そして、これと同じ指示の出し方を、若手社員にしてみる。

「目的は、新人が一人で見積書を書けるようになること。条件はA4で1枚、専門用語は使わない。成果物は、書く内容と失敗例が並んだ表」

すると、若手は迷わずに動けます。

で、「あれをいい感じで」と言われると固まっていた人が、急に動き出す。

これ、AIを使い始めたおかげで社員に対する指示力まで上がるという、けっこう面白い副作用があるんですよ。

補助金申請でも同じことが起きる

もうひとつ、現場で実感している例を出します。

商工会経由で補助金申請の相談に来られる経営者は、年間で何十人もいらっしゃいます。

で、その中で、申請書がスッと書ける社長と、なかなか書けない社長の差はどこにあるか。

文章力ではないんですよ。

「目的・条件・成果物」を、自分の言葉で言える力なんです。

「うちの事業の課題は何か」「補助金で何を変えたいのか」「変えた結果、3年後にどうなっていればいいか」。

これが言語化できる社長は、AIを使うかどうかに関係なく、申請書もスラスラ書けるし、銀行にもちゃんと伝わるし、社員にも方向性が共有できる。

そして、これが言語化できない社長は、AIに頼んでも空回りするんですね。

何を聞いていいか分からないからです。

逆に言うと、AIを使う練習は、補助金や融資の説明力を上げる練習にもなる。一石二鳥です。

明日から始めてほしい3つのこと

ここまで読んでくださった方に、宿題ではないんですけど、3つだけ提案させてください。

1つ目。明日、誰かに何かを頼むとき、まず「目的・条件・成果物」の3つに分けて、紙に書いてみてください。書いた内容そのままを伝える必要はありません。書いてみるだけで、自分の指示が曖昧かどうか、すぐ分かります。最初は10秒、慣れたら3秒で書けるようになります。

2つ目。1日1回だけでいいので、AIに何かを指示してみる。最初は「うちの今月の挨拶メールを書いて」みたいな雑な指示で構いません。がっかりしたら、それは指示が曖昧だった証拠です。何が足りなかったかと考えながら、書き直してみる。3往復ぐらいで、自分の指示力が劇的に変わります。

3つ目。社員から「もう少し詳しく教えてもらえますか」と聞き返された瞬間に、ニコッと笑ってください。責めるべきは社員ではなく、自分の指示です。「ありがとう、聞いてくれて」と返せる社長になるだけで、社内の空気が3ヶ月で変わります。

この3つを1ヶ月続けるだけで、指示の言葉が変わります。

使う側に回るか、使われる側に回るか

AIは、これから2〜3年でさらに賢くなります。社員からの突き上げも、世代交代も、加速します。

「あれやっといて」で済ませてきた社長が、急にスマートに変身する必要はないんです。ただ、ひとつだけ、変えていただきたい習慣があります。

「指示は、口に出す前に、3つに分けて考える」

これだけです。

数学が得意である必要も、最新のITに詳しい必要も、英語ができる必要もありません。ただ、自分の頭の中にあるものを、ちゃんと言葉にする練習をする。

それだけで、AIも、若手社員も、外注先も、思った通りに動いてくれるようになります。そして気づいたら、自分はAIを「使う側」に立っている。

それが、たぶん、これからの中小企業の経営者にとって、一番大事な分かれ目になっていく気がしています。

ドラッカーが70年前に書いていた話が、いま、目の前のスマートフォンの中で再現されている。なんだか、面白い時代だなと思いませんか。

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